私の友人は海で命を見失った。
1ヶ月も暗い海をさまよった果てに、300kmも離れた海岸へたどり着いた。
たどり着いたことも、身元が分かったことも奇跡としか言いようがない。
ただ命は失われていた。
葬儀に参列した。涙は出なかった。
友人の家族は疲れ果てた顔をしていた。目には涙も生気もなかった。
突然姿を消し、骨になって帰ってきたのだから、友人の死を信じられる訳もなく受け入れることなどできない。
数年経った今でも、そこに居そうな気がする。
人は沈む
人は沈む。例外はない。
捜索初期段階で見つかる方のほとんどは、海底に沈んでいる状態で発見される。
2、3日で近くの海岸にたどり着く場合もある。
見つからない場合、1、2週間で体内にガスがたまり一旦浮上する。しかしそのうちガスが抜ければまた沈む。
浮上した際に見つかればいいが、広い海では難しい。
あとは潮の流れにのって海底を移動し、そのまま見つからないこともある。
どこかの海岸にたどり着くことは奇跡。
だが残された者はその奇跡を祈り続けるしかないのだ。
残された家族の歩みは止まる
海で命を見失ったら生きているとも死んでいるとも分からない。
残された家族は波の合間に見える漁火を見続けている。
「もしかしたらひょこっと帰ってくるかもしれない」
「もしかしたら通りかかった船に助けられるかもしれない」
しかし頭の中では分かっている。もうだめだと。
家族の希望と絶望は波のように襲ってくる。
あなたが見つかるまで家族の足は波にとらわれ、歩き出すことはできない。
ライフジャケットは家族の心を守る
ライフジャケットを着用すれば生存確率は格段に上がるが、100%助かるわけではない。
だが命を見失っている状態は家族の心を浸食していく。
命が失われることは悲しいことではあるが、一刻も早く家族のもとに帰ってあげることが家族の心を守ることになる。
ライフジャケットを正しく着用しておけば、たとえ命が失われたとしても早く見つけてもらえる。
あなたも冷たく暗い海の中で形が失われていくよりも、そのままのあなたで家族のもとに帰れたほうが幸せだろう。
ライフジャケットはあなたの家族の心も守るのである。
家族のことが大切なら、家族の気持ちを想うなら。
また命が見失われていく
この記事を書いている3日前にも私がよく行く漁港で命が見失われた。
いまだ見つかってはいない。
悲しい想いをするのはあなたではない。残された家族だ。
日本全国でいくつの命が見失われているであろうか。その背後には何人の家族があなたの帰りを待っているであろうか。
まずは楽しいはずの釣りで命を失わないためにも、そして万が一残された家族の歩みを止めないためにも、釣り人全員がライフジャケットや釣り用シューズを着用することを心から願う。
人は沈む。例外はない。